『あの頃、君を追いかけた』を追いかけて
映画を観て、ああ、この物語は自分でも作ってみたい、自分の言葉で表現してみたい、と思うのはなかなかないことで、そうなったときには、きっとそこに強い「憧れ」があったからだと思う。
『あの頃、君を追いかけた』が見せてくれる馬鹿すぎて美しすぎる青春に魅せられて、そこにあった生と愛の、決して無駄でも卑屈でもない、大切な感傷を、自分の言葉で書いてみたいと思った。
だからこの記事は、映画のあらすじのようなものになる。前半のストーリーだけを書いておいたので、ネタバレは前半まで。
この映画は二つのバージョンがあって、2011年に台湾で公開されたものと、2018年に日本で公開された日本版が存在する。出来栄えはともかく、二つの作品の根本的な物語は同じで、その表現によって結構違う印象になっている。だから、私自身も自分なりに表現してみたくなったというわけだ。
ここからが私の『あの頃、君を追いかけた』(前半のストーリーのみ)
(名前は全て新しくつけた)
「花嫁を待たせる気かよ」と言われた僕は、既に出発する用意はできていた。少なくとも外側はできていた。心の中は、どうなのだろう。
10年前、私立高校二年生だった僕は、毎日友達とふざけてばかりいた。授業は先生の目を欺くステルスゲームで、武術系の部活は真の男になるための修行で、放課後は自由を無駄にしないために時間を無駄にする人権擁護の実行で、女の子たちは……高級時計の内部みたいに、原理も論理もわからないくせに、いつまでも「いいな」と見ていられる、そんなものだった。
僕には仲間が四人いて、特別取り柄はなくても、それぞれの個性だけは誰にも負けなかった。
まずは「あそこ」が敏感すぎていつも股間がテントになっていたユウキ。
永遠のデブキャラを幼稚園の頃から宿命として受け入れていたヒノッチ。
生まれながらのキザな言動がせっかくのルックスを台無しにしていたタッキー。
金持ちなのに芋っぽさを全身で醸し出していたカズ。
こんな僕らに唯一共通していたことといえば、五人全員、同じ女の子に恋をしていたということ。クラス一番の優等生で、顔の可愛さががレッサーパンダとちょうど同じだと言われていた朝倉七。
もしかしたら、男子たちの間では、彼女が好きじゃなきゃおかしい、という暗黙のプレッシャーがあったのかもしれない。
実際のところ、朝倉はいつも上からものを教えるように喋って、人のやることにいちいち指摘するお節介やきで、僕のことを軽蔑の目でしか見なかった。
僕の仲間たちはそれぞれ違う方法で彼女の目を引こうとした。しょうもないマジックで脅かしたり、彼女の家の前でブレイクダンスを踊ったり、なぜか前腕の長さを自慢しだしたり。方法のせいか人のせいかはわからないが、一度も成功したことがなかった。
そんなある日、ほんの些細なできことが、彼女が僕を見る目の色を、少しばかり変えた。
英語の時間に、彼女は珍しく教科書を忘れて慌てていた。ざまあみろ。人を馬鹿にした罰だ。確かにそう思ったはずだ。
でも先生が教科書を忘れた人には授業を受けさせないと言い出した時、体が先に動き出し、自分の教科書を彼女に渡して、立ち上がった。
まあ、僕は慣れていることだし、こんな恥ずかしい罰、彼女には似合わない。どう考えても僕が教科書を忘れてきたことにして置いた方が理にかなっているのだ。
その時、一つ予想しなかったことが起きていたことを、僕は知らなかった。僕の教科書の中のバカバカしい落書きには、「英語の意味は全くわからないけど、朝倉七はかわいい」と何気なく書いておいたのもあって、それを本人に見られてしまったのだ。
彼女の本音は今でもわからない。でもその日から、彼女は僕の個人コーチみたいになって、勉強を手伝ってくれた。手伝ったっていうか、無理やり押し付けてきた。自分で作った数学のテストを家に持って帰らせたり、参考書にわざわざハイライトを入れて貸してくれたり、誰かが聞いたら僕に惚れてるんじゃないかというくらい、彼女は熱心だった。
負けず嫌いな僕も、自分に内在する実力を見せてやろうと、課せられた課題を全てこなし、生まれて初めて勉強というものに取り組んだ。
仲間たちが引いてしまうほど……
今考えてみると、みんな、引いているのではなく、羨ましかったのかもしれない。
だんだんと勉強に自信が湧いてきたところで、僕は彼女に勝負を申し込んだ。彼女が「私は私よりバカな男には興味ない」と言ってきたので、「バカ? かわいそうだから勝たせてあげてるだけだって。俺が本気出したらやばいよ」って返したことをきっかけに、次のテストで負けた人が罰を受けることを提案した。
彼女が勝ったら、僕が丸坊主になる。
僕が勝ったら、彼女が一ヶ月間ポニーテールにする。
負けるはずがないと、彼女はすんなり勝負を受け入れ、おそらく僕の人生の中で一番楽しい勉強期間が始まった。知識を得るとか、将来に役立つとか、いい成績をとるとか、自慢するとか、そういうのはどうでもよかった。だた、彼女に勝って、ポニーテール……
しかしまあ、現実はそう甘くない。
あっさりと負けてしまった。
成績がぐんと上がって先生や親に褒められても、負けたという悔しさしか頭になく、もうやめたろうかと投げ出してしまいそうになった。お遊びはこれで終わりだ。
しかし、そんな僕の目の前に現れたのは……
それは悔しさなどを吹っ飛ばすだけでなく、胸と頭の中を空っぽにしてしまった。なんで勝負に勝ったはずの彼女がポニーテールで学校に来たのか、それはわからない。しかしその日からの僕は、いまだかつてない勢いで勉学に励んだ。
「好き」という言葉が、頭になかったと言うとウソになる。おそらくそこ言葉がくっきりと浮かび上がって、伝え合わずにはいられなくなる少し前に、あっという間の高校生活は終わりを迎え、僕たちは全員、それぞれの道を歩むことになった。
彼女と僕は、まったく違う都市にあるまったく違う大学に行き、まったく違う学科に入ることになった。
彼女を大学に見送る駅のホームで、僕が彼女にプレゼントを渡した。
自分で描いたリンゴのイラストに「You are the apple of my eye」という、いつか英語の教科書で見た言葉。
彼女はそれを、どう受け取ったのだろうか。
その時、僕たちにとってとても大切な時間が終わり、また何かが始まろうとしていた。
それから10年がたった今、また何かが終わり、新しい何かが始まろうとしている。そんな中、いつまでも変わらないことがあるとするなら、サクッとかじり付いたときのリンゴの甘酸っぱい味のような、「あの子」への憧れ。僕はバカだから、いつまでたってもみんなの「あの子」を追いかけ続けた……
*ここまでが約半分の内容、続きが気になる方は本編をご覧あれ。